「帰れねーから、あと一泊するよ」と言ったAさん。

すると彼女の泣きも収まり、Aさんは安心したらしく、すぐに眠りに落ちた。

それから数時間後、顔にポタポタ落ちる液体で目が覚めた。それも生暖かいやつだ。

「何か、気持ち悪いなと思って、目を開けると彼女が俺の顔の真上で手首を切ってるんですよ」

震える声でAさんは続けた。

「もう、ほんとビビッテ速攻で洗面所にいったら鏡に血だらけの俺の顔が写ってて‥それだけじゃなく、

鏡に口紅で『殺す』って書いてあったんですよ」

Aさんは、懸命に顔を洗ったが、なぜかおでこの赤みだけが消えなかったらしい。

そしてAさんは私の目のまえで前髪を上げた。

するとおでこには「殺す」と蚯蚓腫れのように小さく彫ってあった。