心霊スポットの取材後、記事の打ち合わせでA(霊媒師)
と幹線道路沿いにあるファミレスに入った。
「たいした場所じゃなかったな」
Aは窓際の席に座るやいなやつぶやいた。
彼の残念そうな表情から
企画の失敗を宣告されたようで私は悔やんだ。
すると
「おい外に変な餓鬼がいるぞ」
Aは奥の窓を差した。
と同時に「バンバンバン」と大きな音が聞こえてきた。
驚いてAの差す方向を見ると
白塗りで、口から血を流した餓鬼が勢いよく叩いていた。
不思議なことに叩かれている窓のカップルは気がつかず、他のお客も店員も気づいていなかった。
Aはコーヒーを不味そうに啜りながら
「もしかして、連れてきちゃったんじゃないか。見えている、聞こえているのは俺達だけで、
あの心霊スポットの餓鬼だよ」
Aの冷静さも併せて私はゾッとした。
そして餓鬼は徐々に横移動しながらこちらの窓に近づいてきた。
「おい! どうするんだ」
少々荒っぽい声でAに対処を求めた。
余裕な表情でAは答えた。
「無視すりゃいいんだよ。周りの奴らは餓鬼の存在に気づいてないだろう。
奴らは関係ないから。だから見えない、聞こえないんだよ。だから同じように気づかないふりをしなくちゃならないんだ」
私はAの対処を聞いて安心した。そして餓鬼の霊は消えた。
「ところで、この話、心霊本に載せるの? やっぱあの家まずかったんだよ。適当に流したほうがいいよな」
Aは確認を求めてきた。もちろん、後日談は載せるつもりはないと伝えた。
「そうか、読んだ人の家に餓鬼が窓を叩きに行ったらまずいからな。ここだけの話にしょうな」
私には分からなかった、なぜAが恐れているのか。
だが、この記事を書きながら、いつ窓を叩かれるのではないかと私はビクビクしている。
叩かれたら無視すればいいだけのことなのだが‥‥