1年前のことである。商業誌に多くの連載を抱える売れっ子カメラマンのX氏と出会った。

「かならず数点、写ってるんですよね」

X氏によると“写る”とは霊のことである。

もちろん心霊企画ならいざしらず、料理の本などではある意味、事故でしかない。

「入稿の際にはそれをPCでレスポンス(消す)しなければならないんです。お化けが原因で仕事が来なくなったら、そっちのほうが怖いですよね」

そんな愚痴のような嘆きから、X氏の悲しみも浮かんできた。

写真を撮り続けて10年たった。だが来る仕事は便利屋もどき。撮りたい写真の依頼など皆無だった。

そして事故が起こった。写真仲間が亡くなったのである。X氏は彼の墓前で誓った。商業写真はもう撮らないと‥‥

もちろんその場限りの感傷的な誓いなど続くはずもない。

それ以来、怪奇現象は起こっていたのだ。

「彼の仕業かもしれませんね。彼は筆が鈍るといって頑なに商業写真を拒否して、バイト先で亡くなりましたから。商業写真を撮るならバイトする!  これが彼の口癖でした」

だが、そのバイトで命を落とすとは何とも皮肉な話である。

「来月彼の命日なので、個展を開くんです。けっこうお金がかるんですよ。明日からトラックの運送で稼ごうと思います。商業写真を撮るのをやめて、これからはバイトのお金で自分の作品を発表していきます」

筆者は招待状を楽しみに待った。だが翌月送られてきたのはX氏のお通夜の知らせだった。